(三)浮気は夢で終わりたい  
 ある地方都市へ出掛けた時のことであった。 仕事が意外と早く終わり、後の約束は翌日となっている。寝るには早すぎるし,夕食にも早い。私の場合,時間をつぶすのはカラオケであるがそれもまだ早過ぎる。 当時はカラオケボックスなどまだない時代であった。
適当な時間までパチンコで時間調整をするかと思い立ったのである。
 その頃のパチンコは開け開けチュウーリップの時代であったが,私にとってパチンコは暇つぶしには適当ではない。 ゆっくり打っても千円が五分と持たないのである。 昔からのパチンコ消費予定金額の三千円をたちまち打ち込んでしまった。 この調子だと一時間もここにいたら、いくら使うか分からない。
 「こんなことならパチンコなど考えなければ良かった。 もうやめた、やめた」
 と半ばヤケッパチでふと隣の台へ目を移すと、いつの間にはじめたのだろうか,若い女性がジャラジャラ音をたてて玉を出しているのである。 見るともなしに見ていると,あちらこちらの穴に実に良くはいる。 あの頃はスリーセヴンとかフィバーしたとかの表現が生まれる以前の時代であった。 彼女の台は常にどこかのチューリップが開いている。 あまり見事なので
 「貴女は上手いですね。 見ていても気持ちがいいくらい,良く入りますね」
 「ええ、この台は入る機械なのです。 打ち止めになった台が時間が来て開放されたので私がプレミアつけて買い取ったのですよ。 だから入る台なのです」
 「へぇー,この町にはそんなシステムがあるのですか?」
 「あら,こちらの土地の人ではないのですか?」
 「ええ、東京から来ましてね。あまりパチンコはやらないんですが,時間つぶしと思ったのが,三千円で二十分と持たないので私には時間つぶしにならないんですよ。自分で打つよりあなたのような上手い人のを見ていたほうが,よっぽど楽しいですね」
 「東京にはこのようなシステムありませんか?」
 「さあ,あまりパチンコはやらないものですから分かりませんが,東京にもあるのかなあ」
 「こちらには、チョクチョクお出でになるのですか?」
 「始めて来たものですから西も東も分からないんです。 カラオケでも唄いに行きたいなと思うんですが,どこへいったらよいか分からないものですから……。どこか適当な店,知ってますか?」
 「カラオケ好きなんですか?」
 「ええ、酒はあんまり飲めないのですが,カラオケが好きで,カラオケ唄いたいばっかりにそういう店へ行くのです。 だから込み合う店よりも静かな雰囲気の店の方が、どちらかというと好きですね」
 「あら私もカラオケ好きですが,それならピッタリの店,知っていますよ」
 「それじゃ,案内してくれないかなあー」
 「いいわよ。 だけど今,出ている時だからもう少し待ってね」
 「それだけ出ていれば充分でしょ」
 「先ほど、言いましたように、この台はプレミアをつけて買い取っているので,これで元を少しオーバーした位なのよ。 もう少し出したいと思うのよ」
 「よし分かった。 そのプレミアの部分は私が案内料として負担しよう。 だからもう終わりにしたら?」
 「あら本当?有り難いわ。 だけど少し待ってね。どうせ急ぐことでもないのでしょ」
 「それもそうだね。 あなたの打っているのを見ているだけでも楽しいから,もっとじゃんじゃん出しなさいよ」
 私は彼女の氏素性などを知る必要は全くない。 ついていってもこの先問題のない女性かどうかを観察していればいいのだ。 恐らく彼女も私と同じ考えなのであろう。, 世間話をしたり冗談を言ったりしながら二十分くらいが過ぎた。
 「もうこのくらいでいいわ。 ではご案内しましょうか」 
 当時は景品がライターの石だったように記憶している。 これを景品交換所へ持って行くと現金にしてくれるのである。 二人でタクシーに乗り,目的のスナックに到着した。タクシーでワンメーターちょっとの距離であった。
 
どの年代にも青春はある 
 ママとマスターは中年過ぎたご夫婦という感じである。 店の中には観葉植物が多くおいてあり,ガラス越しに小さな庭の見える落ち着いたシックな店である。どうも話の内容では以前に彼女はこの店でアルバイトをしていたらしい。
 自分が勤務していた店に連れてきたということは,この店の雰囲気からしても,この子は安心して大丈夫な女性と見ていい。 また、私をこの店に連れて来たと言うことは,私に対して気を許したと解釈していいだろう。 私は彼女の名前でボトルをキープした。
 「又来れるかどうか分からないけど,残ったボトルは友達と飲みなさい」
 これは暗に貴女との付き合いはこれ一回切りですよ――との意思表示である。 そして
 「こんないい店に案内してくれたのだから,約束通り案内料を払わなけりゃ」
 と彼女に一万円を渡した。
 「本当にこんなに貰っちゃっていいの?」
 「だって約束でしょ。気にしないで取っておきなさいよ」
 七時頃だから客は誰もいない。 ママもマスターもとても気持ちが良い人で感じがいい。 貸切の状態で二時間近く楽しく遊んだのである。 当然二人で唄うデュエットも絶好調であった。
 九時近くなって新しいお客さんが何人か入りだした。 ここで彼女に昔の馴染み客でも現れたらチャンスを逸するだろう。
 「じゃ,この辺でそろそろ出かけようか」
 「え,どこへ出掛けるの?」
 「決まってるじゃないか,ホテルだよ」
 「全く、男の人って、こちらが安心だと分かるとすぐそれね」
 「そんなことお互い様でしょ。貴女だってどんな男なのか観察してたのでしょ」
 ママもマスターも他の客に掛かっているから我々の会話は聞こえない筈だ。
それでも彼女は素直について来てくれた。 店の支払いは繁華街から外れているからなのか,ボトルをキープしたのに大変安かった。タクシーを拾うと
 「どこでもいいからモーテルに行ってよ。だけどあまり汚いモーテルは嫌だよ」
 苦い記憶は忘れない
 昔、ある小さな町の近くで得意先の社長が自動車事故を起こし,病院へ担ぎ込まれた。 当時,我が社としては取引額が多かった会社なので夜,車を飛ばして見舞いに駆けつけたのである。 幸い命は取り留めたが,今日はこの町に泊って明日までいてほしいと病院からも頼まれ,近くで泊る事にした。 ところが小さな町である。 三つある旅館はどこも満室で泊れない。 すると三軒目の旅館のご主人が
 「モーテルなら空いている所があるのですが……。うちから電話してあげましょうか? 男の人,一人で行っても泊めてくれませんから……。よろしかったら電話してあげますよ」
 仕方がないからそこへ泊ることにしたのだが,今の時代なら恐らくあんな汚いモーテルはないだろう。 これなら空いているはずだ。 モーテルが汚いとすっごく不潔に感ずるものだ。 ところが,こんなモーテルでも利用する男女がいる。恐らく汚い関係のカップルだろうと見られてしまう。
 タクシーに乗ってモーテルと言った途端に,なぜか昔の,このことが頭をかすめたのであった。
 彼女とは約二時間の後に別れたのであるが,その間,彼女からは私に個人的な質問は全く出なかったし私からも彼女にプライベートなことは何も聞かなかった。お互い身分を明かさぬままに短い付き合いは終了したのである。あれから年月が経ってみると夢の出来事だったようにも感ずる。しかし,淡い思い出として思い起こすとき,これもその年代の青春の一ページだったのだと思うのである。

 
ショート・ショート  
 年寄りの蚊 
 
おじいさんの蚊が若い蚊達に羨ましそうにつぶやいた。
 「この頃の若い奴らは全く運がいいのう。わしの若い頃は,若い娘っこの手か顔くらい しか刺せなかったものじゃて……」 
  
 プレイボーイ    
 彼のプレイボーイ振りが心配になった彼女が彼にそっと聞いた。
 「ねえ,貴方。もし私に子供が出来たらどうする」
 「そうしたら,その子の父親の目を盗んで,時々僕に会いに来てくれよ」
 と彼が答えた。

 薬の効能
 
与太郎の女房のおかめ,やぶ医者の甘井羊羹と密通していたが、世間の目がうるさくてなかなか思いを遂げることができない。あるとき
 「ねえ、お前さん」 「何だい」
 「私ね,あそこの奥の方にオデキが出来たらしくて困っているの。放って置くと大変なことになるというし,人の話では甘井先生がこの治療はウマイと言う話よ」
 「それは大変だ。すぐ甘井先生に来てもらおう」
 と羊羹を呼んで体を見せると
 「これは大変だ。うち捨てておくと命が危ない。これはな,薬を丹念に塗るより他にしようがない」
 「私が薬をつけてやりましょう」
 「イヤイヤ、素人ではダメだ。私が治療をしなければ薬の効果が出ぬのだが、ただ困ったことに奥のほうなので指では届かん。と言って,あいにく道具がない。急を要するのでこうするより仕方がない」
 といって,自分のセガレの頭に薬をつけておかめの体の奥を治療した。それを脇で見ていた与太郎が
 「ねえ先生」  「何だね」
 「もしその……,先生のセガレに薬がついていなかったら,私はやけて,もう許して置けないでしょう」
 
 
二連発     
 パーティーである男が熊狩りの自慢話をしていた。 
 「北海道の山の中で大きなヒグマとバッタリ出っくわしたのですよ。いやビックリしたのなんの。銃を構える暇もなく,それこそ日ごろ鍛えた腕にモノを言わせてね。続けざまに二発ぶっ放してやりましたよ。お陰で,危ないところを逃れることが出来ました」
 すると,近くで若い男と話し込んでいた彼の細君が彼の話しを聞きとがめて叫んだ。
 「アラ、ウソおっしゃい。続けざまに二発なんてもう十年近くもありもしないくせに。人様には大きなことばかり言って……」