聞くも涙、語るも涙の物語
問題発言
取引銀行の宮田支店長が立ち寄ってくれた。
「あれ、支店長、ずい分体格が良くなったじゃないですか。ちょっとお会いしない間にふっくらなさいましたね」
「わかりますか? 参ったな。実は昨年の暮れ頃からタバコをやめましてね。そうしたら食事がうまくて……。一ヶ月ちょっとで五キロ太ってしまったんですよ」
「五キロと言うのは十日前の話でしょ。今の体格なら十キロ近いんじゃないですか? だけどよくタバコやめられましたね。実は私もタバコやめたんですよ」
事実、そのときは風邪を引いたのが原因でタバコがまずく感じられ、ちょうど良い、やめてしまおうと禁煙して三日目であった。これまでに四、五日程度の禁煙は何十回もの経験があるのだ。それではこれを機会にすっぱりと止めてしまえば一番良いのだが、そうは行かない。
━━俺はいつでも簡単にやめられる━━
が逆に長続きせず、簡単にまた吸い出してしまうのである。
「へえー、社長はまた、何でタバコをやめる気になったんですか?」
「実は高校時代からの親友に医者がいましてね。彼が『山崎、我々の歳になってからタバコをやめても寿命は三ヶ月位しか延びないぞ』というんです。じゃ俺の場合はいつから三ヶ月なのか?と聞いたら 『うーん、死んだ日の3ヶ月前なんだろうな……。つまらんことを聞くな』。要は私共みたいに六十歳を過ぎればタバコを吸ってもやめても大して変わりはないということなんでしょうね」
「それなら何で辛い思いをしてタバコをやめたんですか?」
「だからやめるつもりはなかったのですが、先日この話しをある女性にしましたところ、その女性が『三ヶ月でも山崎さんに早く死なれると淋しいから、タバコやめて』と言ってくれたものですから」
「えっ! 本当ですか」
あんまり驚くものだから 「嘘です」 と言えなくなってしまった。
以前から親しい仲間内ではこんな冗談は言い合っているのだが、考えてみたら冗談を言った相手がまずかった。これで社長の信用が失墜し、今後金は貸してくれなくなるぞと思ったのである。
信じてくれるのは家内だけ
私の娘二人がまだ高校生の頃、三ヶ月ほどタバコをやめたことがある。この時はさして苦しくもなく続いたので、今度は完全にタバコをやめられるなと思ったのであった。ある時、悪友とクラブと称する場所へ遊びに行ったのである。若い可愛い女の子が隣の席へ座ると私に
「あら、タバコお吸いにならないのですか? 珍しいですわね」
近頃のようにタバコの害がどうのこうのと言われている時代ではない。確かにタバコを吸わない男性が珍しい時代であった。私は可愛い彼女の顔を見ながら
「タバコやめて、みつき位になるんだけれど、美人がそばにいる時は一本吸うことにしているんだ。一本くれる?」
と気障な台詞で一本吸ったのであった。この時はこれで無事終了したのであるが、これより三,四日後に別の仲間と別の店へ遊びに出かけたのである。
この店の女性は四十歳前後の中年ブスであったが、この不美人の女性が前回のカワユイ子ちゃんと同じように
「あら、タバコお吸いにならないんですか? 珍しいですわね」
私も条件反射で
「三ヶ月ほどタバコやめているんだけれど、美人がそばにいるときだけ吸うことにしているんだ。一本くれる?」
ところが、この中年ブスの不美人女性はモノスッゴク感激して喜んでくれたのである。
「あらー、私、そんなこと言われちゃってどうしようかしら。どうぞどうぞ、一本と言わず何本でも吸ってください」
五分くらい過ぎると
「タバコお吸いになりますか?」
と差し出してくれる。その都度、厚意に対して
「美人がそばにいると無償にタバコを吸いたくなるんですね!」
と言わなければならない。女性を喜ばすことは良いことなのだ。これは善行だと思ったトタン、三ヵ月の禁煙は水泡に帰したのであった。
その時、高校生の娘達は
「お父さんは意思が弱いのね。せっかくやめたのだから続ければ良いのに」
と私を非難したのであるが、その時、私の家内は毅然として
「あんた達はお父さんに向かって何て言うことを言うの。謝りなさい。まあ、貴方は何にも道楽がないのですから、せめてタバコくらいは自由に吸いなさいよ」
といって私の苦境を救ってくれたのであった。
(これ全く本当の話)
ところが、今ではこんな大事な話しを家内はとうの昔に忘れてしまい
「あら私、そんなこと言ったかしら?」
とつれない返事なのである。
タバコを吸うパターン
大体、タバコを吸うという行為には一つの習慣がある。人それぞれ吸うパターンがあるのだ。私の場合、家ではあまりタバコは吸わないが、会社について机に座るとまず一服と言う気持ちになる。所用があって電話をかけたとき、
「ちょっとお待ち下さい」
と相手に待たされると、受話器を肩で押さえてタバコに火をつけたくなる。
仕事がうまくいかずイライラすると無性にタバコが吸いたい。来客があったり、人を訪問したりして、席につくと一本に火をつける。仕事が一段落して次の仕事に移る区切りに一服となる。食事の後の一服は何ともうまい。仕事を終えて雑談をしながらの一服。会社を出てからの気障なくわえタバコ。今は全くやらなくなったが、麻雀でのテンパイタバコに、負けが込んでのやけタバコ等々。
静かなバーのカウンターで、真っ直ぐに立ち昇る紫の煙をしみじみと見つめるのは、また何とも良いものである。
こう考えてみると一日十本や二十本で済む筈がない。このようにタバコと言うものには習慣性があるから、こういったパターンに出会うと無性にタバコを吸いたくなる。私はパターンが多いからそれを乗り越えるのが一苦労なのだ。
恩師の訓示
私が高校卒業の時、クラス担任の先生が我々に最後の訓示をした。
「君達の中にタバコを吸っている者がいるか」
さすがに 「ハイ」 と名乗り出るものは一人もいなかった。
「君達は高校を卒業したと言ってもまだ未成年である。だからタバコを吸うのはまだ早い。高校を卒業すると大人になった積りとなりタバコを吸い出すものが多いが、そういう法律に違反する行為があると卒業取り消しと言うこともあるので充分注意をするように。芥川龍之介の短編に、タバコは悪魔が人間を虜にするために与えたものであると言う文章がある通り、タバコは一度吸い出したらなかなかやめることが出来ない。タバコを吸っている者は必ず一度や二度は禁煙を思い立ち実行するのだが、その都度、自分の意思の弱さを証明することになる。
そんなことがないにしても第一、経済的にも物質的にも無駄である。一箱四十円の新生を (先生は二十本四十円の新生を吸っておられた。だから高校生では新生より高いタバコは無理だと思われたか? ところがタバコを吸っている学生は、皆先生より倍値のピースを吸っていた) 一日一箱吸ったとして月に一千二百円、一年で一万四千四百円、十年になると十四万四千四百円となる。
この一年一万四千四百円を年二割の (当時は金利が高かったようだ) 複利で十年間積み立てたとすると、何と四十四万八千五百六十二円と言う大金になる。」
確かに昭和二十六年頃の四十五万円は大金であった。今と比較すれば対象物によっては十倍から百倍くらいの価値はあっただろうと思われる。
「人生、十年間でタバコを吸う者と吸わない者でこれだけのハンデがつくのは大きい。私は君たちに余計な回り道や苦しみを味あわせたくないから、現在まだタバコを吸っていないのであればタバコは覚えないほうが良いと思います」
卒業最後の訓示にしては変わった話であった。しかし卒業後、四十数年経っても覚えている訓辞だから立派なものだ。先生となって初めて卒業生を担任し送り出すのである。この話の前に我々より思いもかけぬ記念品が先生に拍手と共に贈られたので感激し、あがってしまって、どうも常日頃考えている本音が訓示となって出たらしい。物理の先生らしくなかなか理詰めの話であった。
要注意人物
私の懇意な取引先の社長が脳溢血で倒れた。幸い一命は取り留め、体に不自由は残ってはいるが、年々回復に向かっている。以前は大変なヘビースモーカーで一日六十本以上吸っていた。ところが今は全く吸いたいと思わないという。
主治医の先生の話では、脳溢血により脳の組織が変わり、タバコの味の記憶が亡くなったのだろう。だからタバコを吸いたいと思わないのだ、とのことである。だからこの社長の場合、タバコをやめるための苦しみは全く心配がないのだそうだ。
この医者の先生が言うのには、このようにタバコをやめるには、脳の組織を変えなければならぬほどの大変なことなのである。 この大変なことを、簡単に出来る人━━要するにタバコを吸ったりやめたりが、平気で簡単に出来る人は、逆に脳の構造がおかしい人だから、このような人と付き合うときは気をつけなさい━━とのことであった。
この先生もタバコをやめるのに苦しみ苦しんで、このような学説?に到達したのであろうか。 (完)
ショート・ショート
キャッチホンにしたら
ある男が、もう一時間以上自分の家に電話をかけようとしていたが話中で通じない。たまりかねて電話局に、話中の電話を切ってくれるように頼んだが、それが出来るのは生死にかかわる場合だけだと言う
「そうか」
と男が言った。
「それじゃ言うがね。電話にしがみついているのが、うちの娘とボーイフレンドだったら、殺人事件が起こることのなるんだぜ」
物分りの良い父親?
父親が娘の部屋をのぞいてボーイフレンドに言った。
「君、私の家では十時には部屋の電気を消すことになっているんだからな。覚えて置けよ」
「ハイ、分りました。お嬢さんに必ず守らせます」
勇敢な青年
海でおぼれた娘を助けてくれた青年に父親が感謝していった。
「全くお礼の言葉もありません。大変苦労されたでしょう。君はなんて勇敢なんだ」
「いや、大した苦労はしませんよ。ただ他に三人もの男が助けに集まってきたんで、そいつらを叩きのめして追っ払うのに苦労しましたがね」
成長
年頃の娘が母親に尋ねた。
「お母さん、どうしてお父さんと結婚なんかしたのよ」
母親は、ため息をつきながら
「そうかい。お前もそれが不思議と思うようになったんだね。成長したものだ」
? ? ?
人妻が若い男と駆け落ちした。
「出来るだけ早く遠くまで行っておくれ」
ところがタクシーの運転手は
「万が一、事故を起こしたら大変ですから」
と安全運転に心掛け、途中休憩を何度もとって、やっと目的地に到着した。
「ずい分、時間も掛かったから、料金も高くなったでしょう。幾らですか?」
「いやいや奥様、旦那様から、絶対事故は起こさぬようにと過分なチップを含めて、料金は全部頂いております。ハイ」
理想のモノ
世界でも有名な大金持ちの資産家が理想の女性にめぐり逢い、思わず叫んだ。 「私は貴方のために地位も名誉も家族も捨てよう」
すると彼女は心配そうな顔をしながら
「まあ、それは嬉しいわ。だけどお金だけは捨てないで来てね」


