敵は内にあり
  

 男というものは、どんなに堅いと言われる男でも浮気願望は心の中に必ずあるものだそうだ。 堅い人と軟らかい人の違いは、その願望を行動に移すか理性で抑えられるかの違いである。 浮気心を理性で抑えられる人はケタはずれに意志の強固な人なのであるが、この少ない数の中の何人かは
 「俺は不器用で女性を口説くことなど出来ないのだ」
 とか、プライドが高く
 「女性を口説いて断られたときは、みっともないし、そんな恥をかきたくない」 または、ものぐさで
 「女性を口説くなんて面倒くさいし、トラブルにでも巻き込まれたら大変だ」
  と思っているうちに自然と堅くなってしまったという人が結構いるのである。
こういう人が何かの間違いで女性にモテルと、目の前が真っ白に輝いてしまい、それこそ見境がつかなくなって人生が狂ってしまうのである。
 特に近頃は女性が解放的になって、男性に接する態度がなれなれしい。 女性に免疫のない男はこのなれなれしい態度を惚れられたと勘違いし間違いを起こしやすいのである。
 私の親友の江藤は五十も半ばを過ぎ、頭のテッペンも薄くなり、さしていい男でもないのに若い女の子に良くもてる。 全く羨ましい上に不思議なのだ。ある時
 「お前それでよく若い女の子にモテるな。 そのモテるノウハウの奥義を教えろ」
 「そうだな。 いくつかのパターンがあるのだが、その内一つだけお前に伝授しようか」
 と彼は話し出した。
 「酒の席などが特に良いのだが、まあ若い女の子と世間話が出来るくらいになったとしよう。 時間を見計らってから、私もこの年になると今まで過ぎてきた年よりも、もうこの先残っている年の方が少ないんですよね」
 としんみり語りかけるのである。 そりゃそうだろう。 五十七歳にもなって残りが多いとは重千代さんでもなければいえる言葉ではない。 あの長命の重千代さんが百十五歳の誕生日を迎えたとき、インタビュアーの女性アナウンサーが
「重千代さんはどんなタイプの女性をお好みですか?」
 と質問したら、あの人はユーモアのある人で
 「私は甘えん坊ですから年上の女性が好きです」
 と答えたそうである。 日本で一番長命なのだから年上の女性などいる訳はない。 まあ百歳以上のお年寄りに好みの女性は? と聞くほうもどうかと思うのだが?……。
 さらに彼は続けるのである。
 「もう残りが少ないと思うと一生に一度の思い出に、あなたのような若い女性を抱いてみたいですね」
 そして彼女に三つの条件を示すのである。
 1、そういう関係を持ったとしても、絶対、誰にも口外しない。
 2、これは一度きりのもので、絶対、二度、三度は求めない。
 3、お小遣いをあげるよ。
 この三つ目が大切なのだそうだが、このお小遣いの金額は大体三万円以内とのことであった。
 彼はこの手を使って三十三パーセントの確率を上げているとのことであった
プロ野球選手でも三割打者と言えば大打者である。だが逆を考えると六十七パーセントの失敗があると言うことだ。 これだけ恥をかいても構わぬと言う人は挑戦してみてはいかが?
 先日、ある会合の後の雑談で浮気の話に花が咲いた。 浮気がバレそうになっても、女房には絶対 「浮気をしました」 と白状してはいけない。 これがたとえ二人で寝ているところへ女房に踏み込まれたとしても
 「俺は何もしていない。 気が付いたら、いつの間にかこの女の人がそばにいたのだ。 俺は何もしていない」
 と徹底的にとぼけ続けなければいけない、と加藤氏が主張した。
 すると全く真面目そうな三十四、五歳の佐藤君が
 「本当にその通りですね。 私も白状したばっかりに浮気がバレて女房に頭が上がらなくなってしまいました」
 と言う。
 「自分から白状してしまったの?」
 「いや、うまく誘導尋問に引っ掛かって白状させられてしまったのです。 後でシマッタと思ったのですが、もう後の祭りでした」
 「一体、何をやらかしたのよ?」
 「実は半年ばかり前の話なのですが業界で視察を兼ねてフィリッピンへ旅行に行ったのです。 向こうに着いて着替えの入っているバッグを空けたら、何と、その中にあのゴムで出来たコンドウさんが入っていました。 自分は入れた覚えは全くない。 これは病気をしょって来ないようにと女房が気を利かせてくれたに違いない。 俺の女房は話がわかる。 素晴らしい女房を貰って俺は幸せ者だ」
 本当に彼はその時、そう思ったそうである。 そのコンドウさんを彼は仲間にも配ったりして、仲間からも素晴らしい奥さんだと羨ましがられ、感謝の気持ち胸一杯で日本へ帰ってきたのである。 すると奥さんは彼に
 「あんた、フィリッピンで浮気してきたでしょう」
 と言うのである。 
 「何言ってんだ。知ってるくせに……」
 と腹の中では思いつつも、まさか、喜びはしゃいで喋るわけにもいかず
 「いやー、そんなことはないよ」
 「絶対怒らないから、本当のことを言いなさい」
 と静かに何度も言うものだから
 「実は……」
 と話したところ、今まで静かにしていた奥さんが、とたんにカンカンに怒り出したと言う。 だから女の「絶対」は絶対当てにならぬのだ。 ここではじめて彼は奥さんにハメ込まれたと悟ったのであるが、これは女房が考え出した知恵ではないぞ…――と感じたのであった。
 これほどの知恵を奥さんに植え付けたのは一体、誰であったのだろうか? 
 何とその犯人は昼間のテレビであった。 世の亭主族が昼間、家族のために一生懸命、働いている時間にテレビでは暇を持て余している奥さんに、海外に出るご亭主にはコンドウさんをバッグに黙って入れておけば必ず使用して帰ってくるから、怒らないからと静かに追及すれば必ず白状する、とか、夜中の一時二時に酒も飲まず、素面で帰る男は浮気をしている確率が高い、とかの知恵を懇切丁寧にせっせと教育しているのだ。
 奥さんも始めは怒る積もりは無かったそうだが、あまりにも見事に引っ掛かるものだから急に腹が立ってきたとのことである。
 世の亭主族よ。 亭主の敵は内にあり。 ゆめゆめ油断召されるな!。おのおのがた。
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