私は死ぬまでカラオケ人生
 近頃、しばらくぶりでお会いする人から
 「どうですか? 相変わらずやっていますか?」 
 「ええ、やっていますよ。 自分でもバカじゃないかと思っているくらいですから……」
 知らない人が聞いたら何の話と思うだろう。 だがこれで意思の伝わっている会話をしているのである。
  「この四、五年 自分の声を録音して聞いていなかったので、先日、家で録音して聞いてみたのです。まあ四年以上も一生懸命唄い込んできたので、自分では結構上達しているつもりだったのですが、以前と同じでちっとも上達していないのです。全くがっかりしてしまいました」
 「いや、そんなことはありませんよ。 山崎さんはうまいですよ」
 「私の家内は 『あなたは人のオダテに素直に乗る人なのよ。 人はオダテて言ってくれるのだから素直に信じちゃ駄目よ』と言うのですが、あの録音テープを聞いた限りでは、家内の言うことは正しいと思い知らされましたよ」
 という会話が多くなってきたのである。
客層のサイクル
 最近はカラオケスナック、カウンター割烹の小料理屋が全く不況だそうだ。 まず、そういった店に若い人達が全く遊びに来ない。 昔は上司が若い部下を連れてきて、その若い社員が10年、20年経つと、今度は上司となって先輩と同じように若い社員を連れてくると言うサイクルがあったのだ。
 ところが、今の上司と部下の会話が全くかみ合わないという。 仕事の話ならまだ共通点があるのだが、世間話になると全くおかしくなり、上司の話がトンチンカンな会話となるそうである。 40代前半の上司でも、すでにそういった傾向だそうだ。
 中には、若者のことをよく勉強していて、話を合わせることが出来る上司もいるそうだが、バリッとしたスーツを着てブランド(高級)ネクタイを締めた人が、若い人の話に合わせている姿は、無理にレベルを下げている感じで、似合わないそうである。 若い人も共通の話題だからと仕事の話ばかりでは、酒くらいは上司の懐を当てにしなくとも、自分の金で飲みますと言う時代になったのだ。
断層はカラオケにも
 ある大手の会社で、昔は部長主催の会合の後は、必ず部長が 『今日は俺について来い』 と若い人達をクラブへ連れて行って飲ませたくれたそうである。
 ところが、現代は部長といえども住宅ローンに追われ、子供の教育費に追われて、奥様から小遣いを切り詰められているので、そんな余裕はない。 だから元気良く 『俺について来い』 とはいっても支払いは割り勘になるという。 その上、若い人達に言わせると、部長の行く店は高いという。高い割り勘を払って、モテルのは部長だけというのは、それこそ割が合わない。 今では部長が 『俺について来い』 と言うと、幹事が
 「二次会の席は用意してあります。 一人会費2000円ですが、よろしかったら部長も参加しませんか?」
 部長は浮かない顔をしながら付いて来るそうだ。 かように世の中が変化して来ているのである。 私の行くカラオケスナックも常連客は四十歳半ば以上である。
当世カラオケ気質
 私も昔は知らない店に飛び込むのが好きであった。 それでボラレタという経験はない。大体、店の感じで分かるのである。 ドアを開けて、小さい店なのに女性が3人以上いる店だと危ないのだ。 まともな店でも女性が多ければ、人件費が客単価にオンされるから当然高くなる。 初めての店のドアを開けて、これは危ないと思ったら
 「あれ、間違えたかな?」 とか 「佐藤さん来ていませんか?」 
 とか言って、入らなければ良いのだ。
 十数年も昔のことだが、客がいないからゆっくりカラオケが唄えると思って入ったら、間もなく若い人達が八人くらい入ってきて、とてもおじさんが演歌を唄う雰囲気でなくなってしまった。 ママは
 「構いませんから遠慮しないで唄ってください」
 と言ってくれるが、若いエネルギーに圧倒されて草々に退散したことがあった。
 今では、若い人達はカラオケボックス・カラオケルームが飲食付きでもこの方が安いからと利用しているようである。
 特に若い人達は、カラオケボックスでは1時間で何曲歌うかが勝負だから、エンデイングなどすぐカットして次の曲を入れるそうである。 仲間で行っても自分の選曲に忙しく、人の唄など全く聞いていない。 部屋の中はうるさいからと外へ出て曲探しをしているとのことである。 これでも楽しいのかね?
常連客が店を仕切る
 先日、ある知人をカラオケのない小料理屋へ連れて行った。 
 「山崎さんでもカラオケのない、こういう店に来ることもあるんだ」
 と、ビックリされた。
 この店も数年前までは常連客でいつも満席であったのだ。 たまに若い人が入ってくると、この常連の年寄り連中がいびるものだから、若い常連客が育たない。 その人達が定年を迎えたり、体調を崩して酒が飲めなくなったりして、このところ客足がパッタリと少なくなってしまった。 ママは
 「今になって考えると、あの時若い人をもっと大事にしておけばよかったと思うわよ。 もう後の祭りだけど。 年金生活に入ると、いくら昔が懐かしいと言ってくれても、三ヶ月に一度来てくれればいい方なのよ」
 と言う。 今は空いているから、私などはビール一本に小鉢の肴二、 三品で、千五百円で帰っても何とも思わないのであるが、昔は、のん兵衛の常連が集まっている中で、私がいくら飲めないからと言っても、ビール一本 (ママは全く飲めない人だから) で帰る勇気はなかったのであった。
移り行くカラオケ
 昭和四十七年頃からスナックバーにカラオケなるものが出現した時は、酒の飲めない私は唄っている間は酒を飲まなくとも良いと、一曲百円でも全くありがたいものが出来たと思ったものである。 それがその後、パイオニアによってレーザーカラオケが開発されて、それは一曲二百円と聞かされたときは、まずカラオケは唄われなくなるだろうと思ったのである。
 ところが、バブル景気の波に乗ったことと、店の女性が歌詞カードをそろえる手間が省けること、お客さんが高級志向に転じたことで、たちまちのうちに、8 トラのカラオケ設備がレーザーデスクカラオケに席巻されてしまった。
 しかし、このカラオケの業界も日進月歩で、電話回線による通信カラオケだと、多少 音は悪くとも曲数は多いし (それこそ日進月歩で音もよくなってきた) 場所は取らないしという利点から、通信カラオケを置く店が多くなってきている。 最近は一曲二百円を取る店は少なくなっている。
 私の長い付き合いである六本木交差点の近くにある 『ウィンブルドン』という店は、ママ一人で切り盛りしているのであるが、飲み放題、唄い放題で一人三千円という料金である。
 お客さんも分かっているから、七時半から十時くらいまではすぐ満席となってしまう。 そして一時間から二時間くらいでサット帰ってくれる。 飲み放題でも、出すウイスキーはスーパーニッカくらすであるが、この店でヘベレケになった人は見たことがない。
 この店のママは、料金を3千円にするにはそれなりに考えていて、小鉢の付き出しのほかは、各テーブルに干き物を器に山盛りにして出してある。 この干き物はぜんぶセロハンの袋に入っているものだ。 この他にオレンジのカットしたものが5, 6切れと、季節によっては、アメリカンチェリーなどが添えて出てくれば、結構豪華である。 干き物は一人2〜3個しかつままないから、客が帰った後、その分を補充して置けばよいのだ。 
 六本木あたりの中年紳士は洗練されているから、水割り三杯くらいで五杯以上飲む人は滅多にいないようである。
 「山崎さん、これで充分採算は取れているので心配なさらなくても大丈夫よ」
 別に心配はしていないが水商売とは、やり方次第なんだなと感心してしまう。
 ウィンブルドンは満席のときは近くに提携店があって、(多少条件は落ちるが) こちらでも料金は三千円である。 二軒ハシゴしても六千円ならと、スナックKで遊んでいてウィンブルドンの空くのを待つという客もいるようである。
 目黒・恵比寿のスナックでも、ボトルをキープしてあればカラオケ唄い放題で5千円と言う店が多くなってきた。間もなくハウスボトルで五千円となるだろう。 いや、すでに客単価三千円、三千五百円という店も出てきているという。
 恵比寿の山郷(やまざと)のママは
 「もうカラオケ一曲いくらの時代じゃないのよ。 カラオケのリース代に耐えられなくなって、取り外す店も結構あるみたい。 今までリース代の値引き交渉をしても、応じてくれないのでこの間 『機械を返すから持っていってくれ』 と言ったら 『今、そう言われて戻される機械が多くて、倉庫に入らなくなり、別に高い家賃を払って倉庫を借り増ししているのです。 リース料金は相談に乗るので何とかこのまま使ってください』 と泣きついてきたわ」 
 と言っていた。
カラオケマニア最後の仕上げ
 私もカラオケマニアと称して、ここまでのめり込んできたのだから、何か人より変わったことをしてみたい。
 私の家の檀家寺は神谷町にある浄土真宗の専光寺である。 両親のお墓もここにあるから私が死んだら専光寺のご住職にお経位いは上げてもらわなければ義理が立たぬだろう。 だが、皆さんが集まっている場所に、私がカラオケで唄っているテープを流して、その歌の合い間合い間に
 『本日は私の葬儀のために、皆様お忙しい中をご会葬下さいまして誠にありがとうございました』
 という挨拶を入れたテープを録音して作っておきたいと思っている。 皆さんにこのテープを流したならば、参列して下さった人達はなんと言って下さるだろうか?  ビックリするより 「山崎さんらしい」 と評価してくれるかもしれない。
 目黒には芸能プロダクションが多い。 目黒法人会で第6支部の会合の折、あるプロダクションの専務さんにこの話をしたら
 「それは面白いじゃないですか。 うちには専属の歌手が練習するスタジオがあるのです。 毎日使用していることでもないので、あいている日には使っていいですよ。 テープの録音だけでなく C D にも録音出来るのです。 あ、このCDにジャケットつけて会葬御礼につけたらどうですか?」
 「うーん、そこまですると結構金が掛かるだろうな」
 「いや、大したことありませんよ。150万もあれば、立派なジャケットつけてCD一千枚作れますよ」
 さすが芸能プロダクションの専務である。 考えることが早い。 企画力がある。 しかし これはとても家内の許可が得られぬだろうと思う。
 私はカラオケスナックで、
 「カラオケにずいぶんお金使ってるんでしょう?」
 と言われると、冗談に
 「家内から 『あなたがカラオケに一生懸命になるくらい、仕事をしてくれていたら、うちはお金持ちになっていました』 といわれているんです」
 ――といっているのが家内の耳に入り
 「全く、悪い冗談よ。 言いもしないことで、またまた私が悪者になるじゃないの」
 と文句を言われている。
 しかし、カラオケに投資した金額は、大変なものと言うことは私自身が良く知っている。 だが、そのお陰で73歳の現在まで元気で過ごしていられるのである。 まあ、せいぜい長生きをして、年金でヘソクリをため込んで、お金が出来たら CDの制作を考えてみるか?
…………その時はもう遅いですね!。
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腰痛の方に朗報!